:::
記
>
小説
>
奇異なお話
> 星孤独
星孤独
複雑な心理、いつものように犯せない心
いけたかだかに恋われた生活
どちらにせよ、それがなかったのか
あったのか、分からない
妙に大きい月の横で
僕は食パンをちぎって食べている、目の前に死体がある
放漫な身体つきが、微妙に壊れて来ている彼女の
名前はもう思い出せない
町はがらくたになってしまって
ただ月だけが妙に大きい
茶色じみた景色の中で
灰色の彼女だけ、場違い
彼女は瞳を少しだけ動かして
僕を見た
「そのパンおいしい?」
「まずまず」
普通の食パンだし、おいしいこともない、
まずいこともない
ココアがここにあればと思うけど
壊れてしまった世界だから、それは望めない
そばにあったがらくたを、けり飛ばすと乾いた音がした
聖堂の光のような音だった
誰も死に絶えたこの場所は妙に空っぽで
それがどこか暖かくて、生きるのも、死ぬのも同じだと思わせる
ぬるめのお湯につかりきった、僕等の生活
死に絶えた後も、その臭いは消すことができない
彼女の胸に、テントウ虫がとまって、消えてった
「私にも食べさせてよ」
「死んでるのに」
「いいんじゃない、理性はないわ」
そうだね、ここに、理性はない
真っ先に崩壊した常識
真っ先に崩れ去った理性
理知的な光は、そう、まるで悪魔のように
「いにしあちぶ」を粉々にされて
数理学者のぷらいど達は暗い海に沈み込んだ、あの時の静かなる集団自殺、その光景がまだたまに、地面に転がり刻まれる、週刊誌、スナップ、そんなものの残骸として
遠くに骨が見えた
からかさに吹かれた黄色い骨だった
僕はパンをちぎって、彼女の唇にのせた
とたんに、ちいさなピンク色の舌がのぞいて、それを飲み込んでいった、くちゅっという、音がした
「私きれい」
「死んでるから分からないよ」
「砂を噛んでるみたい」
「死んでるんだもの」
ふーーーと、長い息を彼女は吐いた
「そんなところにいないで、人を探しにいったら」
僕は彼女になめられた右指を眺めて
「人なんてもういないよ」
「あなたみたいな人がいるかもしれない」
「さぁ、どうだろう」
もう一度食パンをちぎって、食べた
おいしいと思った、涙でた
なんでか苦しかった、誰もいないことが
誰も
誰も
誰も
撃ち落とされたように転がる鳥達
動物園の寂しい獣は血を吐いてぐったりしだした
母と父があいついで消えていき、影の薄い親友がどこにもいなかった
コンビニにいくと死の臭い
臭うわけじゃない、ただ、死んでいるなと思う、時のとまりかた
ラジオをつける、砂嵐
路上に転がる消えそうな遺体、ここはどこだろう
月だけが、
月が、赤く赤く大きかった
「そばにいてくれるの?」
彼女が言った、切なそうな声だった
多分、彼女も孤独
星のように、孤独
何萬光年も何萬光年も、離れた孤独
冷めた色
「そばにいてあげるよ」
パンをちぎるとかすかな音がする
パンが生きているなら、悲鳴のような、悲しい音だ
悲しいね、悲しいね、生きることは、悲しいね
多分、そう言いながら、僕は死んで行く。
... まえへ
... つぎへ
Copyright © 1999-2010 by Yodaka.Kayoko All Rights Reserved.
いけたかだかに恋われた生活
どちらにせよ、それがなかったのか
あったのか、分からない
妙に大きい月の横で
僕は食パンをちぎって食べている、目の前に死体がある
放漫な身体つきが、微妙に壊れて来ている彼女の
名前はもう思い出せない
町はがらくたになってしまって
ただ月だけが妙に大きい
茶色じみた景色の中で
灰色の彼女だけ、場違い
彼女は瞳を少しだけ動かして
僕を見た
「そのパンおいしい?」
「まずまず」
普通の食パンだし、おいしいこともない、
まずいこともない
ココアがここにあればと思うけど
壊れてしまった世界だから、それは望めない
そばにあったがらくたを、けり飛ばすと乾いた音がした
聖堂の光のような音だった
誰も死に絶えたこの場所は妙に空っぽで
それがどこか暖かくて、生きるのも、死ぬのも同じだと思わせる
ぬるめのお湯につかりきった、僕等の生活
死に絶えた後も、その臭いは消すことができない
彼女の胸に、テントウ虫がとまって、消えてった
「私にも食べさせてよ」
「死んでるのに」
「いいんじゃない、理性はないわ」
そうだね、ここに、理性はない
真っ先に崩壊した常識
真っ先に崩れ去った理性
理知的な光は、そう、まるで悪魔のように
「いにしあちぶ」を粉々にされて
数理学者のぷらいど達は暗い海に沈み込んだ、あの時の静かなる集団自殺、その光景がまだたまに、地面に転がり刻まれる、週刊誌、スナップ、そんなものの残骸として
遠くに骨が見えた
からかさに吹かれた黄色い骨だった
僕はパンをちぎって、彼女の唇にのせた
とたんに、ちいさなピンク色の舌がのぞいて、それを飲み込んでいった、くちゅっという、音がした
「私きれい」
「死んでるから分からないよ」
「砂を噛んでるみたい」
「死んでるんだもの」
ふーーーと、長い息を彼女は吐いた
「そんなところにいないで、人を探しにいったら」
僕は彼女になめられた右指を眺めて
「人なんてもういないよ」
「あなたみたいな人がいるかもしれない」
「さぁ、どうだろう」
もう一度食パンをちぎって、食べた
おいしいと思った、涙でた
なんでか苦しかった、誰もいないことが
誰も
誰も
誰も
撃ち落とされたように転がる鳥達
動物園の寂しい獣は血を吐いてぐったりしだした
母と父があいついで消えていき、影の薄い親友がどこにもいなかった
コンビニにいくと死の臭い
臭うわけじゃない、ただ、死んでいるなと思う、時のとまりかた
ラジオをつける、砂嵐
路上に転がる消えそうな遺体、ここはどこだろう
月だけが、
月が、赤く赤く大きかった
「そばにいてくれるの?」
彼女が言った、切なそうな声だった
多分、彼女も孤独
星のように、孤独
何萬光年も何萬光年も、離れた孤独
冷めた色
「そばにいてあげるよ」
パンをちぎるとかすかな音がする
パンが生きているなら、悲鳴のような、悲しい音だ
悲しいね、悲しいね、生きることは、悲しいね
多分、そう言いながら、僕は死んで行く。