朝起きて、ふと。
世界が消えたらなぁと思った。

本当に消えた。
うそ、うそ・・・うそ、
うそ!今のうそ!手を振ってあせった
真っ白な空間、
くわえていた歯ブラシが落ちる

戻った。
鏡の前で、馬鹿面した俺がいた

キス・きす・キス
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道を歩く、歩くといろんなものが落ちている、
あの喪失感、あの無限のなにもない時間
あれが夢とか、幻とか、どうしても思えなくて
俺は確かめながら歩く
湿った電信柱、誰かのげろ、犬のうんち、
ぎすぎすした街は、いつものとおり、
汚くて手放したらどこへでも行きそうだ
ごっと、音を立てて、後ろ頭に何かがあたった

「ゴミ虫」

やっべーーーーーーーーーー。
血が真っ先に逃げ出した、多分俺は真っ青な顔してる
そういやそうだよ、あれだよ、ねぇきみ
ここはやつらの溜まり場だった
酒場の集う、腐ったれた場所。純真無垢な俺なんか
混じっちゃいけない場所だった

「は、は、こっち見ろよ」

みれねぇよ!のどもとに唾がたまる、
飲み込みたい、ああ、でもどうする?
おびえていることを知られたら、
きっと付け上がるに違いない、やつら。

この街の、不良

害虫が通る
害虫が通る
そこのけそこのけ 傷つけられるよ
傷つけられるよ

金は無いといったらお決まりに従って
2、3発殴られ、けられ、ズボンを取られて
道に捨てられた。

あたしがなにしたっていうのよーーーーーーーー
う、う、う、
なーんてな。慣れてるもん、ぜんぜん平気。
パンツとられなかっただけまし。洗濯したばっかで
汚れてないし。
強がりをぶつぶつ言いつつ、
悔し涙と悔し鼻水と殴られ鼻血とよだれを拭く。

一番悔しいのは謝っちゃったことだろう
ごめんなさい、ごめんなさい、許して、あ、殴らないで
わるくねーって俺はわるくねー!何も悪くねー
でも

「かっこわりーーーーーーー」
「誰だ人の心を察するのは!!!」

蛇ちゃんだった。
蛇ちゃんというのはあだ名で、昔、俺がつけたのだ
チャーミングなおっきな目と
「好きなもの?生卵!」とかいう馬鹿っぽさが
俺の中でブレイクして小さい子にありがちな意地悪。
ほら。なぁ?
可愛い子を見ると食べちゃいたいっていうじゃないか、
あれとおんなじことだよ、多分。

でっかく育った蛇ちゃんのお尻を見ながら、
近所の公園で、俺はとまらない鼻血に実はちょっとあせっていた。
蛇ちゃんがぬらしたハンカチを持ってくる。
「鼻血、止まらない?」
「う、うん」
「冷やせばとまるよ」
「う、うん」
「・・・・・」
「なんで、あんなとこにいたの?」
「なぁ・・・・・、俺、死んじゃう?」
蛇ちゃんはまざまざと俺を見て、肩をすくめて小生意気なため息をついて、
キュートに俺をひっぱたいた。
「あほ」
「男の鼻血をなめるなーーーーーーーー」
もう一発たたかれた。

「はぁーーー・・・」
俺の話を聞いた後、蛇ちゃんは深刻そうにため息をついた。
「世界が消える・・・ね」
「信じてくれる?」
「信じるわ」
「蛇ちゃん!」
「そのあだ名やめて。っていうか亮ちゃん、精神病院行こう」
「信じてねーじゃねーか!!!」
「信じてるって、亮ちゃんが狂ったこと」
「ぜんっぜんしんじてねーーーーーーー!!!!」
み、見てろ!っと俺は言って、ブランコがきぃきぃいう。
「んーーーーーーー」
「なにうなってんの?おなか痛いの?」
「違う!そこの小石を見よ!!!」
「・・・・・どれよ」
確かに公園にはいっぱい小石が転がっていた。
ぶわっと・・・、一瞬風が吹いた・・・。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・ど、どだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「消えたぞ」
「きもーーーーーーーーーーい」
公園の小石が、全部消えた。
黄色い地面がからからに乾いている。
「こ、ここまでとは思わなかっただろう」
「っていうかあんたなによ?きもーーーーーい」
「きもいいうな!!!」
「きもー、っていうかこれ黙っていたほうがいいよ、亮ちゃん、
下手したら魔女狩りだよ」
「ま、まじょ!!?お、男なのにまじょ!?」
「ちんぽ切られちゃうよ」なんか蛇ちゃんは魔女狩りを誤解してないか?
「いたっ!!!」
「ちょんぎるよ」
「いたい!!!!」
蛇ちゃんがきゃっきゃっと笑う。ナチュラルハイになってる。
「そっかー、きもいかーーーーー」
しょぼーんとうなだれて見せると、蛇ちゃんがあせる
「あ、で、でも、使い道あるかも。
ダイオキシンとか、ゴミとか、あー点数の悪いテストとか!
消せるし!」
「でもきもいんだろーーーーーーー」しょぼーーーん
「そ、そんなことないって亮ちゃんなら似合ってるかもしれない、
正義の味方!消しゴムマン!!!」
「けしごむ!!!」
「悪いやつは消しちゃうぞ!」
「け、けしちゃう!!!」
そこで俺らは顔を見合わせた。
悪いやつら・・・・・・?



「いるよね」
「いるね」



はぁ、はぁと公園にかけこんで、
俺らは息をついた。
蛇ちゃんがたまらず笑い出す
「ぶはーーーーっはっはーはー!!!」
「うあーーーーーちょっと罪悪感、まじ、け、け、けし」
「いーよー、あとで戻せるんでしょー?」
「も、戻せるけどさー」
木戸口、難波、五月、いつもつるんでいる、この街のボス。
この街で逆らっちゃいけないやつら。
風のように消えた。しゃぼんだまみたいに消えた。
公園の小石はもとにもどって、しゃくしゃくと転がっている。
ブランコが寂しげに、少しだけゆれている。
「亮ちゃん!!!!」
「うあ!なに!?」
「・・・・・ひみつにしよーね!」
天使がいるとしたらこの子に違いない、という笑顔を浮かべて、
蛇ちゃんは言った。

3日目、俺達はまた公園にいた。
どうすることもできず、きぃ、きぃ、きぃ、とブランコを揺らす。
「・・・・・ごめんね」
蛇ちゃんが謝る。たまらなかった。いやだった。
蛇ちゃんにこんな顔をさせるなんて。誰のせいだ。俺かよ。
「・・・いや、蛇ちゃんのせいじゃないよ」
きぃ、きぃ、とブランコがなる。
夜の公園は寒い。都会の星は少ない。
北風、北風、きぃきぃブランコ。
「・・・・・・・・・へーびちゃん」
「・・・あ、あたしがあんなこと言ったから」
とうとう蛇ちゃんが泣き出して、ぼろぼろ地面が湿っていく。
「蛇ちゃん」
「消しちゃえなんて言ったから」
「君のせいじゃないって」
「まさか戻らないなんて!!!」
痛い。残酷に響いた言葉が、からんころん転がる。
夜のしじまにからんころん染みとおる。
戻らない。
彼らは戻らなかった。俺はがんばった。
戻れって何度も祈った。戻れ。顔を真っ赤にして。
鼻血まででた。でも戻らなかった。


戻らなかった。


「ごめんね」
「亮ちゃんがなんであやまるのよぉ」
「蛇ちゃんが泣くんだもの」
「泣いてないもの」
「鼻水まで出てる」
「でてない!亮ちゃん!!!」
「・・・考えるよ」
蛇ちゃんが俺を見る。
「なんとかする。必ず彼らを戻すから、だから泣かないで、蛇ちゃん」
蛇ちゃんは俺を見て、じっと見て、こくりとうなづいた。そうだ、蛇ちゃんを泣かしちゃいけない。

4日目。
やっぱり戻らない。逆立ちして祈ってみた。戻らない。
それどころか能力までなくなっちゃったようだ。何も消えない。戻らない。

5日目。
蛇ちゃんがパウンドケーキを作ってくれる。
がんばってって気持ちらしい。でも戻らないんだ。
弱音はきそう。俺のよわっちぃ。

6日目。
お風呂でおぼれてみた。
戻らない。

7日目。
先生が言った。
「あー、この間から、行方不明になっていた、あー、木戸口、難破、五月、の3人だが、
あー、どうも、彼ら3人で、旅行に行っていたらしい、あー
今日、帰ってきたそうなので、あー、みんな、心配かけたな」
なんだよー、えー、帰ってきたのーってみんながブーイングする。
俺は感謝した、感謝した、感謝した、先生ありがとう、はげた頭も神様みたいだ。
チャイムが鳴った瞬間、俺は走り出した。2-3に蛇ちゃんがいる。きっと喜んでいるはず。
蛇ちゃん!


公園で、蛇ちゃんはぐずってる。俺はどうしようもなくて、
さっきっからおどけてばっかいる。
「ほーらほら、蛇ちゃん、水芸だよー」
「あーほー、ぐしゅん」
「なきやんでー」
「うるさい!ばか、ぐしゅん」
蛇ちゃんの大きな目から涙が落ちる。俺はそのたび心が痛いんだ。
ごめんよ蛇ちゃん、それは何回も言ったけど、また言ってしまう。
「ごめんよー」
「ちーがーうーのー」
蛇ちゃんがつっぷした。
「蛇ちゃん!!」
「・・・・・怖かったーぐしゅん」
「うんうん、俺も怖かった」
「あほー。なんか、みんな喜んで・・・ぐしゅん」
「ん?」
「木戸口たち消えて、軽いハイみたいにぐしゅん。
よっぽど嫌いなんだなー。」
「・・・だって・・・木戸口たちひどいことするし」
「うん、わたしん中にも、少し喜んでいて、ぐしゅん。
このままでいいじゃんってちょっと思うの、
思ってはいやになるの、
でもこのままがいいってどこかで思うの、
ひどいよ、ぐしゅん」
「・・・蛇ちゃんはひどくないよ」
「ひどいよ。人に人を消させて喜ぶなんて、
ひどいよーーーー」
蛇ちゃんが泣き出す。
「蛇ちゃん!蛇ちゃん!!!」
「木戸口たち、ばかみたい、ばかみたい、あんなに嫌われて、ばかみたい。ぐしゅんぐしゅん」
「蛇ちゃん、ほら、ほら、ブランコだよーーーー」
「あほ!もー!!!ぐしゅん」余計泣き出す。
「あ、蛇ちゃん、蛇ちゃん、じゃ、じゃーさ、なんかほしいもの出してあげる!!
て、手品だよ!手品だよ!!!」
「ほしいもの?ぐしゅん」
「う、うん、なんでも出すよーーー」
「・・・・・ぐしゅん」
「な、なにがいい?」
「・・・・ぐしゅん、キス」
「・・・・・・へ?」
「キス」

蛇ちゃんがなんでそんなこと言ったのかわからない、
わからないっつーかどうでもいいじゃん!!!そんなこと!!!
もーキスまでしちゃったんだから、いきつくとこまでいかんと。とか、
あほなこと考えいていた。

蛇ちゃんは可愛い。
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